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思春期に喫煙を始めれば、それ以降にタバコを覚えた場合より依存する危険が高いこと、そして「ほとんどの人は思春期にタバコを吸いはじめる」ことは、過去の研究でくりかえし立証されている。
脳がすでにできあがっているから、たいした害はないという発想は、「ちょっと考えればいかにばかげているかわかる」とSは言う。 今日のアメリカでは、タバコを新しく覚える18歳未満の子どもが、1日3000人の割合で増えているという。
ニコチンは脳のなかで実に手の込んだことをする。 脳内に広く分布する神経伝達物質、アセチルコリンとそっくりな働きをするが、対象となるのはひと組のアセチルコリン受容体だけである。
またニコチンが作用するのは、もっぱらシナプス前細胞だ。 神経伝達物質を受けとるのではなく放出する細胞のことである。

ドーパミンを生産し、ニコチン受容体をもつ神経細胞があれば、ニコチンはその受容体を刺激して、より多くのドーパミンを脳内に放出させる。 ニコチンの守備範囲は広く、少なくとも20種類の神経伝達物質がその影響を受ける。
たとえば興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の濃度を上げて、脳細胞間の連絡を促進し、記憶力や学習能力を増進させることもある。 ニコチンのこの性質は、子どもの注意欠陥障害(ADD)や、老人のアルツハイマー病に応用できる。
ニコチンとの関係で研究者がとりわけ注目するのは、中脳の腹側被蓋野と呼ばれる場所だ。 ここにはドーパミンを作る神経細胞が集中している。
脳の報酬システムで重要な役割を果たすドーパミンは、活力いっぱいの冴えた気分にさせてくれる物質だ(ドーパミンが出る快感を忘れられないラットやコカイン中毒者は、食事そっちのけで、この場所を刺激したがる)。 このニコチンが思春期の脳に入ると、「いささかショッキング」なことが起こる。
Sはラットにニコチンを投与して、平均的な喫煙者と同じ状態を再現してみた。 すると当然、中脳の腹側被蓋野でニコチン受容体が増えるのだが、思春期のラットの増えかたは、おとなのラットの2倍に達していた。
受容体が増えれば、それだけニコチンを強くほしがるようになり、ニコチン投与をやめても最低1ヶ月はそれが続いた。 寿命が2年しかない生き物にとって、1ヶ月は長い。

また思春期のメスのラットにニコチンを与えると、海馬の脳細胞に損傷が見られた。 「学習や記憶を受けもつ領域を、誰が好きこのんで10パーセントも減らすものか」とSは言う。


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